パーキンソン病患者さんが訪問診療を受けるメリット!

脳神経内科情報

 ホームクリニックなかのは院長山田が神経内科専門医であることもあり、パーキンソン病の患者さんの訪問診療をご依頼いただくことが多くあります。パーキンソン病患者さんの訪問診療をしていて「パーキンソン病には訪問診療がピッタリだな!」と痛感することがよくあります。山田は大学病院や総合病院で脳神経内科外来をしていた経験もありますが、パーキンソン病患者さんは外来で診療させていただくよりも、訪問診療の方が圧倒的にうまく病状をコントロールできることが多いからです。なぜパーキンソン病患者さんに訪問診療が適しているのか?をご説明したいと思います。

パーキンソン病患者さんに訪問診療が適している理由

  1. 患者さん・ご家族のお話をじっくり話せる/聞ける
  2. 患者さんの生活状況に合わせた服薬のアドバイス等ができる
  3. 薬を変更した際の症状の変化がすぐに評価できる
  4. 訪問看護・ケアマネジャー・介護職と連携がしやすい

順番にご説明していきたいと思います。

1. 患者さん・ご家族のお話をじっくり聞ける

 大学病院や総合病院の外来に行ったことのある方であればご存知だと思いますが、大学病院や総合病院というのはとにかく混んでいます。待合室には患者さんが溢れていますし、あちこちから問い合わせなどの電話もひっきりなしになっています。私が大学に勤務していた時は外来をやっている最中に病棟に入院中の患者さんのことで携帯に電話がかかってくることが多かったですし、外来中に脳卒中などの「超急いで対応しなければならない患者さん」が急に来ることもあるため外来はてんやわんやです。このような状況では正直なところ一人一人の患者さんとじっくり・念入りにお話を・・・という訳には当然いきませんでした。

会話例

(山田)前回からお加減いかがでしたか。お変わりなかったですか。

(患者さん)はい、変わりありませんでした。

(山田)そうですか、ではお薬の変更はなしですね。

というシンプルな診察になりがちでした。

一方、訪問診療は定期的に日時を決めて患者さんのお家を訪問して診療するため、外来よりも圧倒的にじっくりと診療ができます。私自身は患者さんのお家にせっかく訪問していますので、会話も特に「深堀り」するように心がけています。私だけではなく、訪問診療の平均的な時間は15-30分程度であり、多くの先生がそうされているのではないかと思います。まずは患者さんのお話をじっくり伺うところからが診療のスタートです。

会話例

(山田)前回からお加減いかがでしたか。お変わりなかったですか。

(患者さん)はい、変わりありませんでした。

(山田)ではこの前おっしゃっていた朝方の身体の動かしにくさはどうなりましたか?便通はいかがですか?この前転びかけたって訪問看護師さんから連絡が来ていましたよ。そういえは娘様の前でふらっとしたとかも聞きましたよ。それから・・・。

(患者さん)先生、待って下さい(笑)。順番にお話しますね。まず朝方の身体の動かしにくさのことですが・・・。

パーキンソン病患者さんには様々な症状があります。身体が動かしにくい、身体がくねくねする時間帯がある、便秘がひどい、吐き気が強い時間がある、眠気が強い、唾液が垂れる、などなど症状は多岐にわたり、そのことを先生に説明するだけでも大変時間がかかると思います。訪問診療ではこれらの症状をじっくりと伺い(時には家の中で実演してみることも可能)、その症状に対してのアプローチを考えてもらうことが重要です。

また先生の話を患者さんが逆にじっくり聞けるという面もあると思います。大学病院や総合病院の外来の戦場のような雰囲気に飲まれてしまうと「ちょっと先生に〇〇を聞きたかったけど忙しそうだしやめておこう」となってしまうことも多いと思います。Yahr3以上の患者さんだともはや病院に到着する頃にはヘトヘトになっていて、さらに待ち時間も長くて「疲れてしまって先生に聞きたい事を忘れました」ということもよく聞かれました(今度からメモしてきて下さいとお伝えしていましたが)。患者さんにとっては自分のお家ですから、患者さんのペースでお話しやすい環境が作りやすいと思います。

2. 患者さんの生活状況に合わせた服薬のアドバイス等ができる

パーキンソン病患者さんは生活の中で様々な大変さを感じられると思います。例えば家の中の特定の段差でつまずきやすい、とか、先生から「薬を7, 11, 15時に内服するように」と言われたけど7時にはまだ起きていない・・・などです。

家の中の特定の場所・シチュエーションで生じる症状や大変な状況については訪問診療ですぐに確認することができます。「この段差は確かに危ないから手すりを設置しましょう」とか、「ここでいつも転んでいるからここを通るのはやめて下さい」など生活状況に合わせたアドバイスをとてもしやすいです。福祉用具の適切な配置などについても相談することができます。

会話例

(患者さん)先生、この前ここで転んじゃったんだよ。

(山田)どうやって転んだんでしょうかね。一緒にやってみましょうか。

(患者さん)廊下のここに出た時に段差につまずいて、とっさにここ置いてある歩行器に手をついたら歩行器がグラグラして倒れちゃって・・・。

(山田)ここに歩行器を置いて支えにするのは危ないですね。歩行器をどかして置き型の手すりを設置したらどうですか。

また患者さんによって起床時間や入眠時間が異なることも家では分かりやすいです。L-dopa製剤などは時間を決めて内服していただくことも多いですが、外来だと患者さんの生活がイメージしにくく「朝6時に内服して下さい」などの一方的な指示を出しがちです。訪問診療だと介護しているご家族も家に揃っていたり、介護サービスとの連携が必須なため1日あるいは1週間の患者さんの生活がイメージしやすかったりするおかげで、患者さんの生活に合わせた指導をしやすくなります。

会話例

(患者さん)大学病院の先生からはメネシットを7,11,15,19時に内服するように言われていました。でも実は起きるのは9時過ぎで・・・。7時のメネシットは飲んでいなくて11時に2錠飲んじゃったりしていました。

(山田)それでは内服を9, 13, 17, 21時にしてみたらどうでしょうか?

(患者さん)え!そんな風に私の生活に合わせて時間を変えて良いんですか!?

3. 薬を変更した際の症状の変化がすぐに評価できる

大学病院や総合病院の外来の受診は1~3ヶ月毎となることが多いかと思います。一方訪問診療は2週間~1ヶ月毎の診療とすることが多いため、必然的に短期間での評価が可能です。パーキンソン病患者さんはとにかく薬の量が多く、症状が安定するまでは細かく処方薬を増減する必要があります。〇〇という薬を増やして症状は良くなったか、XXという薬を中止して症状は悪くなったか、などを短期間で正確に評価していく必要があります。

 当院の患者さんでon-periodのジストニアという症状に悩んでいる方がおられました。当初は歩けていたので大学病院の脳神経内科外来に1~2ヶ月に1回通院していました。外来で「こういう症状がある」とご家族が撮った動画も持参して主治医の先生に説明していましたが、主治医の先生は大人気でとにかく忙しかったようで、「うーん、なんでしょうかね、気をつけてくださいね」と言われるだけで漫然と処方薬が継続となっていました。通院も難しくなり当院の訪問診療に切り替え、改めて症状をご相談され、2週間毎に薬剤の調整を「何時に内服するか」まで含めて細かく実施した結果、あっという間にon-periodのジストニアは消え、また元気に家の近くを散歩できるようになった!ということを経験しました。

会話例

(山田)前回メネシットを1日4回から3回に減らしましたがどうでしたか?

(患者さん)うん、お陰様で夕方くらいに手足がグーッと固まっちゃう感覚が出ることが無くなったよ。でも寝る前くらいになると少し身体の動かしにくさが強いかな。まあもう寝るだけの時間だから別に良いかな。

(山田)ではメネシットは1日3回のままでしばらく様子を見てみましょうか。

(患者さん)うん、そうしてみようと思います。

パーキンソン病の薬の種類は最近どんどん増えており、患者さんも症状の改善が得られやすくなっています。しかし、短期間で適切に薬の効果と副作用を評価して薬剤調整をしていかないと、効果が得られないかどんどん副作用が増えていくことに繋がります。副作用が増えてさらに副作用に対しての薬も増やしていくのは悪手となることが多いです。特にパーキンソン病患者さんは個々人の状態・状況に応じて薬剤調整が必須となりますので、細かく評価・相談・調整をしていくことが大切だと思います。

4. 訪問看護・ケアマネジャー・介護職と連携がしやすい

 大学病院や総合病院の外来に通院しながら、訪問看護を受けている、というパーキンソン病患者さんは多いかもしれません。パーキンソン病患者さんは便秘症であることが大変多く、便が定期的に出るように下剤を調整したり摘便・浣腸をしたりしてもらういわゆる「排便コントロール」のために訪問看護が入っている方も多いのではないでしょうか。

 訪問看護師さんは主治医の先生からの指示書を基に患者さんに必要な指導や処置を実施することができます。しかし、主治医の先生からの十分な指示が無いと、指導や処置を実施することはなかなか難しくなってしまいます。

 例えば患者さんの便が硬くて酸化マグネシウムという薬を少し増量した方が良いな、と訪問看護師さんが考えたとしても、主治医の先生から増量の指示あるいは「患者さんの状態に合わせて調整してもいいですよ」という指示が無いと勝手には変更できません。摘便・浣腸をしたくても「こういう場合にしても良いのだろうか?」と訪問看護師さんが実施できると判断できなければ主治医の先生の判断が必要になります。

 訪問診療医は基本的に訪問看護師さんなど地域の医療職・介護職と顔の見える関係を築いていることが多いため、この部分の連携が非常にスムーズになります。一方で大学病院や総合病院の先生と地域の医療職・介護職はほとんど面識はないですし、連絡を取りたくても地域連携室経由や診療情報提供書や指示書などの書面を通してなどの、かなり回りくどい方法になってしまいタイムラグも大きくなります。地元に頼れる主治医がいる、という状態はパーキンソン病患者さんに取って非常に安心できると思います。

 パーキンソン病患者さんに訪問診療に適している理由を考えてみました。パーキンソン病患者さんは本当に多彩な症状で様々な悩みを抱えられます。訪問診療をうまく利用して日々の生活をより良いものにできると良いですね。訪問診療の適応については主治医の先生とよくご相談していただく必要がありますが、パーキンソン病の患者さんで細かな症状に悩まれている方は是非訪問診療を検討してみていただければと思います。

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