お家での中心静脈栄養

在宅医療情報

※イラストのCVポートは通常とは異なる場所に造られています。

 多くの方は一度くらいは病院で点滴治療を受けたことがあると思います。ベッドに横になって、右あるいは左腕の肘~手首の間辺りに先生や看護師さんが針を刺して、テープで固定してチューブが繋がって点滴棒にぶら下がったバッグから薬がポタポタと落ちる・・・というと大体の方はイメージがつくでしょうか。これは「末梢静脈点滴」という治療になり、腕の血管にプラスチックのチューブを入れ、血管に直接薬をポタポタと落としていくことで血流に直接薬を乗せて全身を巡らせてしまおう、という治療です。薬は様々なものを使いますが例えば栄養剤を投与することもでき、ご飯が食べられない患者さんに栄養剤を投与することもできます。「末梢静脈栄養」とも言います。

「末梢」という言葉の意味は手足の細い血管(末梢血管)を使うことです。「末梢」血管のデメリットとしては血管が細いので、あまりに高カロリーの薬などを入れてしまうと血管に炎症を起こしてしまったり、そもそも激しい痛みを起こしてしまったりしてしまうことなどがあります。したがって「末梢静脈栄養」で投与できるカロリーは多くありません。

 このデメリットを解消する点滴が「中心静脈点滴」です。「末梢」の対義語としての「中心」で、シンプルに言うと「より身体の中心にある太い血管に直接点滴をする」というものです。しかし、太い血管に外から針を刺すことは到底できません。そこで、手足の細い血管(末梢血管)から針金のようなものを入れて血管を辿っていき、身体の中心部分の血管が太いところまで到達させ、そこまで管を入れる、という方法で太い血管に直接点滴をします。この処置は基本的には病院でレントゲン(X線)などを見ながら実施されることが多いです。太い血管に管を入れるので、高カロリーの薬なども入れることができるメリットがあります。また、抗癌剤などの「強い薬」も安心して入れることができます。中心静脈はCentral VeinですのでCVなどと略されたりします。

太い血管にまで到達させた長い管を入れた手足の血管部分からピロピロと長期間出しておくのも感染症のリスクなどを伴いますので、すべてを皮下脂肪の中に埋め込んでしまう処置をすることができます。絵のようなボタン状のものを皮下脂肪に埋め込んで、そこに毎回針を刺して中心静脈点滴を行う手法があります。これをCVポート(中心静脈ポート)と呼びます。針を刺さなければ完全にその患者さんの身体の中に埋め込まれているので、清潔にキープすることができ、また点滴をしていなければ外からは全く分からないようにすることもできます。

 前置きが長くなりましたが、このような中心静脈栄養・CVポートを使った点滴、を家でも実施することができます。カフティポンプという特殊なポンプを使用すれば、お家でも安心して中心静脈にポタポタと点滴を入れていくことができます。さらに中心静脈点滴専用のバッグ(というよりリュック?)などを使用すれば、なんと中心静脈点滴をしながらの移動(状態によっては外出まで!)することができてしまいます。

 中心静脈栄養についてはやり方さえ覚えてもらえれば患者さん御本人や患者さんのご家族にも実施いただくことができます(針を刺す、などの一部処置は医師・看護師が行います)。具体的には、点滴で投与する薬剤の準備(2つの液を混ぜ合わせたりする必要があったりします)や、点滴チューブの交換などは何度か練習すれば実施することが可能です。

 とはいえ、お家ですべてのことを患者さんやご家族で完結させるのは正直なかなか大変です。点滴ポンプが急にピーピーアラームを鳴らしたりすることもありますし、操作の順番を間違えて点滴チューブに空気がうっかり入ってしまったり!なんてこともあるかもしれません。しかし、病院に通いながら、必死にお家でCVの管理を頑張っている患者さんやご家族は案外多いことに驚きます。

 CVをお家で実施するのであれば、個人的には訪問看護は絶対にお願いした方が良いと思います。特に24時間対応してくれる訪問看護であれば、上記のようなトラブルが突然発生した場合、相談・対応してもらうことが可能です。アラームが鳴った時の対応を電話で聞いて解決するかもしれませんし、空気がうっかりチューブに入ってしまった!なんて時も緊急で訪問してもらって対応してもらうことができるのです。

 我々は訪問診療・訪問看護をやっていると「これまで散々苦労していたんです・・・。もっと早く先生/看護師さん達に来てもらっていればどんなに楽だったか・・・。」と言われることが少なくないです。特にCVなどの特殊な医療を家族だけで頑張っていた、なんて方々は我々が出会う頃には疲弊しきっていることもあります。

 CVなどをお家で頑張って大変な思いをされている方は、担当のケアマネジャーさんや、最寄りの地域包括支援センターに訪問看護などを利用するにはどうしたらよいか、ご相談してみて下さい。

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