人間は誰でもいずれ死を迎えます。原因は病気かもしれませんし老衰かもしれません。「どこで死を迎えるか?」「どこでご家族をお見送りするか?」などと考えたことがない方がほとんどですし、多くの方は「最期は病院?」と漠然とイメージされていると思います。しかし、現代において人が亡くなる場所には複数の選択肢があります。当院では訪問診療・訪問看護をさせていただいている方には機会があればご家族等に何となく最終的な方針をイメージしておいていただくことが多いです。「最期を迎える場所」の候補として、病院・家・施設の3種類が挙げられると思います。
「最期を迎える場所」
- 病院
- 家
- 施設
1.病院
たくさんの患者さんやそのご家族とお話してきて、「最期は病院」と考えている方が非常に多いのが事実です。長年在宅療養を継続されてきた患者さんのご家族に「そろそろお亡くなりになる日が近いと考えています」とお話すると、意外にも「じゃあ病院ですか!?」と言われることも多く正直驚きます。
まず、病院にはいくつかの種類があることに注意が必要です。急な病気や慢性疾患を治療する一般的な病院はいわゆる「急性期病院」に分類されます。対して、慢性疾患や老衰の方が穏やかに最期を迎えるまでの間を過ごす病院は「慢性期病院・療養病院」と言えると思います。急性期病院は病気を治療することが目的ですので、実は人が亡くなることはあまり想定されていません。急性期病院は病気を治療することが目的であって、病気の人が生活したりお亡くなりになったりする場所では本来ないのです。病気に対してもう治療する余地がないと判断された場合などは、急性期病院の先生が在宅療養(訪問診療)や慢性期病院・施設などに患者さんを紹介することが多いです。患者さんにとっては「私は見放されたんだ・・・」などと感じてしまうこともありますが、実は急性期病院の役割は病気を治すことにあるため、「病気を治す」目的でない患者さんは他に紹介していくのが自然な流れと言えます。
慢性期病院・療養病院は比較的医療依存度の高い方が最期を過ごしていく場所として有用です。様々な病気で改善の見込みが亡くなった患者さんや、老衰で食事を取れなくなった方などが必要最低限の点滴などの医療的処置を受けながら穏やかに旅立っていく場所です。癌末期の方が入るホスピス(緩和ケア病院・緩和ケア病棟)もここに分類されるかもしれません。
2.家
住み慣れた自宅でご家族に囲まれて最期を迎える、というのは実は多くの方にとってイメージしにくいことであるように思います。ドラマや映画などでも多くの場合、人は病院で亡くなっているように描かれるので、なかなか自宅で家族等をお見送りすることが想像できないのだと思います。「サマーウォーズ」というとても素敵なアニメ映画(筆者は何十回リピートしたかわかりません)がありますが、その映画の中である方が自宅で亡くなる描写があります(ネタバレすみません・・・)。しかし何故か最期には心臓マッサージをされている描写があり、訪問診療をやっている我々としては「どうしてそこで心臓マッサージ?」と少し疑問を持つシーンとなっています。やはり一般の方にはなかなかイメージしにくい描写なのかなと感じます。
しかし、訪問診療・訪問看護・訪問介護など様々なサービスが協力させていただき自宅で最期を迎える方が増えているのも事実だと思います。中には「何が何でも自分は自宅で旅立ちたい」とお話されて、一人暮らしなのにも関わらず最期まで家で過ごして旅立っていく方もおられます。ペットなども含めたご家族とずっと一緒に居られることや、自分の好きなものに囲まれて過ごせることなど、家で過ごせるのは何にも代えがたい喜びがあると思います。1人だと無理だとか、~の病気だから病院じゃないと、ということはありません。患者さんやご家族自身に「家で最期を」という想いさえあれば、最期を自宅で迎えることは十分に可能です。そのお手伝いをしているのが訪問診療や介護サービスと思っていただければと思います。
3.施設
高齢化社会において様々な形態の施設が増えています。代表的なものは有料老人ホーム、特別養護老人ホーム(特養)などだと思います。有料老人ホームと特別養護老人ホームの詳しい違いなどについてはまた解説したいと思いますが、ざっくりと述べると有料老人ホームは株式会社などの一般的な会社が営利目的で建てたサービス付き住居、特別養護老人ホームは社会福祉法人等が都道府県の許可を得て建てた介護施設、というイメージです。なお、有料老人ホームの「営利目的」とは決してネガティブなものではなく、むしろ患者さん・入居者さんのニーズに合わせたきめ細やかなサービスが期待できます。例えば看護師さんが常駐している・リハビリを積極的に実施してくれる・毎食美味しい食事が提供される等です。
最近は様々な会社が有料老人ホームを建てている印象です。当院の周囲にもたくさんの有料老人ホームがありますし、建設予定もたくさん目にします。運営している会社によって中の実情は様々ですが、どこも独自の「強み」を出しておられる印象です。
どうしても病気や介護の問題で「家で暮らすのは難しい・・・」となるケースがあると思います。その場合は上記のような有料老人ホームも選択肢として考えていただくのが良いと思います。多くの有料老人ホームは見学やショートステイを事前にさせてくれますので、中を見てみて、患者さん「らしさ」を大事にできるかどうかなどをしっかり検討していただくのが良いと思います。
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自分や身近な人の最期は誰しも考えたくないことだと思いますし、なかなか情報も得られずイメージがしにくいところだと思います。直接話し合いもしにくく、家族間での情報共有もしにくいです。
私にとって少し衝撃的だったエピソードがあります。ある100歳を超える高齢の患者さんのお見送りの時のことです。長い経過の中で御本人・ご家族は「最期まで住み慣れた自宅で」とお話され、我々も精一杯お手伝いさせて頂き、遂に自宅で旅立ちの日を迎えました。最期のお亡くなりの確認(死亡診断)をしに私が訪問したところ、それまで一度もお会いしたことのなかったご親族の方がいらしていました。死亡診断をしたところ、私に向かってやや納得がいかない様子で「どうして心臓が止まったのに心臓マッサージをしないんですか?」と聞かれました。それまでにどういう経過だったのか、どんなお話合いがあったのか、どうして患者さんはお亡くなりになったのかをご説明してご理解はいただけましたが、やはり「最期」のイメージは多くの方は持ちにくいんだなあと感じた瞬間でした。似たようなことは何度も経験しています(患者さんが亡くなる直前にご家族に「そろそろと思ったので救急車を呼びました」と言われる等・・・)。
患者さんやそのご家族に「最期」の部分を考えていただく手助けをしていくことも、在宅医療に関わる我々の役割の一つと考えています。なかなかつらいテーマですが、本稿もどなたかの参考になれば幸いです。
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