認知症患者さんの訪問診療・訪問看護

認知症患者さんへの情報

高齢化社会日本で認知症患者さんが増加傾向なのは言うまでもありませんが、当院でも認知症患者さんは増加しています。認知症の訪問診療と訪問看護についてご紹介いたします。

1.まずは認知症の正しい診断から。

2.最も大切なのは「環境調整」~環境調整を得意とするのが訪問診療・看護です~

3.様々な症状を薬でコントロールする~薬が全てではない~

4.認知症でも御本人や家族の希望や想いを大切にすること。

順番にご説明していきます。

まずは認知症の正しい診断から。

 「最近ボケてきたかも・・・」と仰る高齢の方は多いと思いますが、それは「病気」なのでしょうか?それともただの「老化現象」なのでしょうか?

 「認知症」と診断するのは実は難しいことだと想います。長谷川式認知症スケールで何点なら認知症、なんてシンプルな話ではないのは当然ですが、では専門的に「アミロイドPETやタウPETでこうなら認知症!」とか「ADAS-Cog13で何点かつ〇〇という薬で点数が上昇したら認知症」とか決まっているかというと実はそうでもありません。専門家の間でも議論の分かれる領域だと思います。そして仮に認知症と診断できたとしても「治る認知症」というものも存在しています。

 まずはきちんと専門家に認知症の診断をしてもらうのがスタート地点だと思います。「先生、最近物忘れがひどくて・・・」→「じゃあお薬出しておきますね~」というような診療は論外です。物忘れが気になるなど何か認知症が心配になるような症状が出た方やそのご家族は、まずは最寄りの脳神経内科専門医を受診することをおすすめします。

 訪問看護も認知症の正しい診断に重要な役割を担っています。訪問看護師は患者さんの生活に近いところで仕事をしているため、患者さんの異変に気がつくのが早いです。訪問看護師が「〇〇さん、認知症の初期かもしれない」と気づいて素早く対応することができたり、認知症で上手く話せない患者さんの希望を汲み取ることができたりします。

最も大切なのは「環境調整」~環境調整を得意とするのが訪問診療・看護です~

 認知症と診断されたら「環境調整」が最も重要となります。環境調整の内容としては食事や排泄・入浴など基本的な日常生活を送れるようにヘルパーさんに手伝ってもらうよう手配する、薬をしっかり毎回内服できるように管理を行う、場合によっては施設に入所する、など様々なことがありますが、一言で言えば「患者さんがその人らしく満足した生活を送れるようにすること」なのかと考えています。

 訪問診療・看護ではそのような環境調整をメインの仕事としている、と言っても過言ではないかもしれません。一人暮らしで内服管理のできない患者さんに規則正しく薬を飲んでもらうのにはどうするか? 「私は認知症ではない!」と本人は主張しているが生活がめちゃくちゃになっていて家族が困っている・・・、などなど複雑な問題が認知症患者さんには生じますが、一つ一つ問題の糸口を解きほぐしていくのが認知症の診療・看護の重要なところです。

様々な症状を薬でコントロールする~薬が全てではない~

 「この薬を飲めば一発解決!」ということは認知症診療ではまずありません。様々な症状を落ち着ける薬はたしかに色々とあり、駆使していくことになりますが、最も大事なのはどのような症状が薬でどう変化したか、ということを丁寧に評価・相談し続けていくことです。薬の効果はもちろんですが、薬により新たに生じた症状はないか、合併症はないか、今後合併症が起こるリスクはないか、等を分析していく必要があります。

 訪問診療・看護では一般的な認知症外来とは違って「生活の場」での状態評価ができるため、薬のリスクベネフィットをより詳細に評価できると思います。混んでいる外来に通院するのに比べて、医師や看護師が自宅まで来るため、じっくりと様々な症状を相談しやすいメリットもあります。

認知症でも御本人や家族の希望や想いを大切にすること。

 認知症になったとしても、当然御本人の希望や想いがあります。認知症患者さんのご家族としても「お父さんやお母さん(おじいちゃんやおばあちゃん)にこうなってもらいたい」という希望があります。患者さんや家族のご希望や想いを分析し、それらを尊重できる最善の道を探るのも訪問診療・看護の重要な役割です。

 例えば、「認知症のお母さんが日中色々な所に電話をかけまくってしまって困っている。1日に100件もかけてしまう。なにか薬を出して大人しくさせて欲しい」という相談をお子さんから受けたとします(実際よくある相談です)。精神の興奮や怒りっぽさを鎮めてくれる薬を出して少し興奮を抑えてもらうことももちろんできますが、それが本当にベストな解決策でしょうか?お母さんはただ寂しくて誰かと話したいだけで、例えばデイサービスなどで色々な人と関わりあえる時間を増やせば電話がなくなったりしないでしょうか?あるいは、薬を出すとして、1日100件の電話が50件になったらそれは合格でしょうか?それとも0件にする必要があるでしょうか?などなど、分析して評価すべきことは沢山あります。

以上です。

認知症の患者さんや患者さんのご家族の方でお困りの方は是非訪問診療・訪問看護も解決策の一つとしてご検討下さい。

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